「自分に合った学び方」が自己肯定感を高める科学:学習スタイルの理解とその実践法
なぜか学習が続かない、効率が上がらないと感じたら
何かを学ぼうと決意しても、思うように進まずに挫折してしまったり、同じ時間をかけても他の人より効率が悪いと感じたりした経験はありませんか。学びの過程で自信を失ってしまうことは、自己肯定感にも少なからず影響を与えてしまう可能性があります。
なぜ、人によって学びの進み具合や得意・不得意が異なるのでしょうか。その理由の一つに、「学習スタイル」の違いがあると考えられています。
学習スタイルとは個人の「学びの傾向」
学習スタイルとは、人が情報をどのように受け取り、処理し、理解しやすいかという個人の傾向のことです。これは知能の高低を示すものではなく、単に「学びやすい方法」に関する個人差を指します。例えば、目で見て図や文字で理解するのが得意な人もいれば、耳で聞いて音声で理解するのが得意な人、実際に手を動かしたり体験したりすることで理解が深まる人もいます。
人にはそれぞれ、情報をインプットし、それを自分の知識として構築していく上で、より効率的な「得意な感覚経路」や「情報処理のパターン」があると考えられています。
学習スタイルに合った学び方が効率と効果を高めるメカニズム
自分の学習スタイルに合った方法で学ぶことは、情報の取り込みやすさ、理解の深さ、記憶への定着率を高めることに繋がります。
脳は、馴染みやすく、処理しやすい形式で情報が提供されると、効率的にニューロン間の結合を強化し、新しい知識ネットワークを構築します。例えば、視覚優位な人が図やグラフを多用する教材を使ったり、聴覚優位な人が音声教材や講義を積極的に聞いたりすることは、脳が情報を処理する際の負荷を減らし、理解を促進する効果が期待できます。
学習効率や効果が高まることで、「わかる」「できる」という成功体験が得られやすくなります。この成功体験の積み重ねこそが、自己肯定感を育む上で非常に重要な要素となります。
学びの成功体験が自己肯定感を高める心理学的な根拠
心理学において、自己効力感(Self-efficacy)という概念があります。これは、「自分は特定の課題や状況において、必要な行動を成功させることができる」という自分自身に対する信念のことです。アルバート・バンデューラによって提唱されたこの概念は、自己肯定感と深く関連しています。
自分の学習スタイルに合った方法で学び、効率的に理解が進んだり、目標としていた内容を習得できたりすると、「自分は学ぶことができる」「やればできる」という自己効力感が高まります。この「できる」という感覚は、脳の報酬系領域(ドーパミンなどが関与)を活性化させ、ポジティブな感情をもたらします。
こうした小さな成功体験とその際のポジティブな感情が積み重なることで、「自分には価値がある」「自分は物事を達成できる能力がある」という肯定的な自己評価、つまり自己肯定感全体が高まっていくと考えられます。逆に、自分のスタイルに合わない方法で努力しても成果が出にくいと、「自分は学習に向いていない」と感じてしまい、自己肯定感が低下する恐れがあります。
自分の学習スタイルを知り、実践するためのヒント
自分の学習スタイルを厳密に診断することは難しい場合もありますが、日々の学習経験を振り返ることで、ある程度の傾向を把握することができます。
- 視覚優位の傾向があるかも: 図やグラフ、絵、映像を使った説明が頭に入りやすい。文字を読むのも得意。色分けやマインドマップを使うのが効果的と感じる。
- 聴覚優位の傾向があるかも: 人の話を聞くのが得意。講義やセミナー、音声教材でよく理解できる。声に出して読んだり、人に説明したりすると整理される。
- 運動感覚優位の傾向があるかも: 実際に体を動かしたり、手を動かしたり(書く、作る、実験する)ことで理解が深まる。体験を通して学ぶのが得意。
これらの傾向は一つに限定されるものではなく、複数のスタイルを併せ持っていたり、学ぶ内容によって得意なスタイルが変わったりすることもあります。重要なのは、「自分はこういう学び方がしやすいかもしれない」という傾向に気づき、それを日々の学習に取り入れてみるということです。
例えば、本を読むのが苦手なら、同じ内容の解説動画を探してみる。聞くだけでは覚えにくいなら、内容を書き出したり、図にまとめてみたりする。ただ覚えるだけでなく、学んだことを使って何かを作ってみたり、誰かに説明してみたりする。このように、様々な方法を試しながら、自分が最も効率よく、そして「わかった!」という実感が得やすい方法を探していくことが大切です。
自分に合った学び方を見つける旅を
自分の学習スタイルを理解し、それに合わせた学習方法を試すことは、学びの効率を高めるだけでなく、「自分はどのように学べば力を発揮できるのか」という自己理解を深めるプロセスでもあります。
この自己理解が深まること自体も、自己肯定感を高める一助となります。自分自身の特性を知り、受け入れ、それを活かす工夫ができるようになるからです。
ぜひ、様々な学習方法を試しながら、ご自身にとって最も心地よく、効果的な「学び方」を見つけてください。その過程で得られる「わかった!」「できた!」という喜びの積み重ねが、きっとあなたの自信を育む大きな力となるでしょう。